岩手の茅葺き民家

名馬の産地として名高い岩手県は民家では「南部の曲がり屋」が民家ファンではない方にも広く知られている。 寄棟の家が上手或いは下手で直角に90度折れ曲がり、その部分に馬を飼育する。 人と馬とが同じ屋根の下に住む形は他の地域では見ることは余り無い。
秋田・山形の 日本海沿いに多く見られる「中門造り」に形式は似ているが大きな違いはその使われ方である。 「中門造り」では曲がった部分の先端に入り口が有り綺麗に刈り込んだスス窓などがある。

「曲がり屋」ではその部分は厩であり折れ曲がった角の所が入り口になっている。  

「曲がり屋」は北上付近から遠野、北上山地、雫石、盛岡に多く葛巻、金田一、二戸、 向かって少なくなり青森に入ると姿を消している。盛岡以北軒の低い寄棟が多く棟に 小さな煙出し木小屋が有った。県の南宮城県寄りの千厩、室根では大きな櫓破風を持った家を見た。

岩手の民家で特に目に付くのは芝棟である。
遠野以北では殆どの民家がそうであると言っても 過言では無いであろう。芝棟(クレグシ)は民家の屋根の造りとして数千年の歴史がある筈であるが、 この地方以外日本海沿い或いは関東以西ではごく稀に見るに過ぎない。

クレグシとは下から茅を葺き上げて来た最上部からの雨漏りを防ぐ目的で粘土質の土(クレ) で固めその上に土を敷き ゆり、いわひば、等を植え根でしっかり土を押さえ棟(グシ)を守る工法である。



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遠野市 一の渡 (1975・12)

遠野市の少し手前の綾織の集落は小さな川にそって 幾つもの曲がり屋が連なって見事な景観でした。 この頃すでに馬を飼っている民家は少なく 作業場か空き部屋なっていました。

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岩手郡 雫石町 (1975.5)

ダム予定地なので手入れや改造の無い曲がり屋の 原型の様な民家を見ることが出来た。低い軒、 丸みを帯びた屋根の線、厳しかった江戸期から 昭和の始めまでの生活の姿を見るようでした。

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二戸市 金田一 (1977.5)

盛岡市を離れると曲がり屋は殆ど無くなり大型の直家寄棟でした。 板葺きの本グシは余り無く芝棟で煙出しは棟に小さな木小屋、妻側の中腹、 入母屋形の破風と様々な形がありました。

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和賀郡 湯田町 (1976.5)

岩手県の南部北上市付近の山間部では秋田の影響を受けた民家が多く有りました。 県道1号線を湯田温泉に近づくと県の他部には無い板葺きのグシに 栗の大きな棟押さえを置いた民家が目だちました。